「パパ活って意外と簡単なんだね。」
友人の綾子が笑いながら言った。
「こんな私でも出来るからね。」
大阪でパパ活を複数回こなしている私は自慢気に答えた。
綾子にも話したけど、大阪で体験したパパ活について綴ろうと思う。
ある夏の日、当時の給料ではカツカツの生活だった私は、思い切ってパパ活に挑戦することにした。
最初はもの凄く緊張した。人見知りの性格だったのもあって、メールのやりとりだけでドキドキした。有名な出会い系サイトを通して出会った男性は大阪に立ち寄ることができると言うので、私が住んでいる大阪で会ってもらうことにした。
とはいえ、真夏日。さすがに外をウロウロするのはきついので、大阪の有名な水族館のひとつである海遊館へ行くことにした。私はこれでもサメが大好き。変わっていると言われるけど、カッコイイやん。男性に会う前にそのことを正直に伝えたら、男性は驚きながらも共感してくれた。
初めて会う男性と水族館だなんて、まるで初めてのデートのようでワクワクした。
模擬恋愛が楽しめるのもパパ活の醍醐味だと思う。
サイト内でのメールのやりとりでは、パパ側からは写真を見せることはできないと言われたので、ある程度の特徴を教えてもらった。短髪で黒髪、身長は170㎝くらい。右の頬に特徴的なほくろがある人。分かりやすいように、わざと腕を組んで待っていると言われた。腕を組んで立って待っているだなんて、ちょっと笑っちゃう。
海遊館の出入り口付近でそれらしい人を発見した。
「あの~、**さんですか?」
サイトでのニックネームを述べてみた。
「ああ、どうも。はじめまして。**こと、***です。朋美さんですか?」
私は本名を使ってパパ活に挑んでいた。
「はい、そうです。標準語なんですね。訛っててすみません。」
関西弁は控えているものの、自分の関西訛りが少し恥ずかしくなってなぜか会うなり謝ってしまった。
「いえいえ、全然気になりませんよ。ありのままでいてください。」
男性の顔を見た時、確かに特徴的なほくろがあることを再認識した。パパ活ってもっとおじいさんくらいの人を相手にするのかと思っていたけど、意外と若いというか、いい歳のお兄さんとデートになるのかと気づくと心臓の鼓動がますます速くなった。
「プロフィール写真だともっとクールな人かと思っていたのですが、実際に会ってみると可愛らしいですね。」男性は綺麗な歯を見せて笑った。
「昔は大阪に住んでいたのですが、今は仕事で転々としていて…。懐かしいなぁ、海遊館。今日は本当にありがとうございます。」男性は丁寧に続けて述べた。
「さぁ、行きましょう。」
男性にエスコートされるなんて、何年ぶりだろう…。
危うくパパ活をしている自分を見失ってしまいそうだった。
あと、涼しい建物内に入って、やはり海遊館にして正解だったと改めて思った。パパ活を行う際にはデート場所は重要だと思う。
「涼しいですね。」私は微笑みながら男性に話しかけた。
「そうですね。あ、敬語じゃなくて良いですよ。あれ、敬語になっちゃうな。」男性はドギマギとしながら答えた。「どないやねん!」と私はツッコんだ。男性は嬉しそうに笑っている。楽しい。
トンネル状の水槽や大型の水槽の前で私はかなり興奮していた。今思えば、ちょっと夢中になりすぎていたかもしれない。
それでも、男性は私と水槽を交互に見ながら微笑んでくれた。
全然不愉快じゃないし、むしろ楽しいし、パパ活で終えるにはもったいないような男性だし、こんな人が彼氏だったらいいな…なんて…。と、私は男性のことを意識するようになっていた。
会う前は不安で、サメだけを見てさっさと帰ろうかと考えていたけど、クラゲや亀などもっと色んなものを見てみたくなった。
2時間という約束だったにも関わらず、男性は急かすこともなかった。
タイムオーバーしたら「僕は全然大丈夫だけど、朋美さんはお時間大丈夫ですか?」と聞いてくれた。
「すみません。夢中になってしまって。私は大丈夫です。今日はここまでにしますか?もし、良かったら、私は暇なので夜までデートも良いかな、なんて…。」と、ダメ元で聞いてみた。
「本当ですか!?嬉しい!もし良かったら、夕食を一緒にどうですか?」男性は嬉しそうに答えた。「もちろん、追加の時間分もちゃんと支払いますし、夕食代も奢るので。あ、もちろん、変なことは求めたりしないので安心してください。」もはや紳士だ。
「嬉しいです。ぜひ。」私は告白が成功したような気分だった。
それからは海外の海がどれほど綺麗だったかとか、あのサメの好きな食べ物は何かとか、他愛のない話をした。お互いのことを知らないはずなのにものすごく楽しかった。
ラフな格好で来てしまったので、オシャレなレストランに誘われたどうしようと不安だったけど、なにわ食いしんぼ横丁でたこ焼きや串カツなど気楽なお店を選んでくれてほっとした。
「凄く楽しいです。今度大阪にきた時は、夜景が見えるレストランで一緒に食事がしたいなと。いかがでしょう?」と男性に聞かれた。もちろん、私は即答した。
夜といっても「危ないから。」と帰りの電車に困らない早目の時間帯で解散してくれた。
「今日は本当にありがとう。こんなに楽しい時間は初めてかもしれない。本当にどうもありがとう。」男性は何度もお礼を述べてくれた。
そして現金5万円を渡してくれた。
水族館や食事を無料で楽しんだのに、こんなに貰えるのかと私は驚いた。
「おおきに。」生活に困っていた私は安堵した。
パパ活なのにも関わらず、男性と別れる時は寂しい気持ちになった。また次回会うことを約束し、電話番号や正式なメールアドレス、ラインなどを交換してその日は解散した。
実は、何度かその男性と会った今、彼から交際を求められている。
「最初は食事やデートさえ楽しめたらいいと思っていたけれど、気持ちが抑えられなくなってきた。」と男性にストレートに告白された。
友人の綾子に相談したら、「そういうのもいいんじゃない?♪」と賛同してくれた。
カツカツの生活で困っていた私が、豊かな収入を持った男性と本当に出会えるなんて夢のようだった。しかも、私が惚れたのは収入の部分ではない。紳士的な彼に今も感謝をしている。